棋譜(きふ)とは,対局の開始から終了までの指し手の記録です。棋譜があれば,対局が具体的にどんな内容だったのかを見ることができます。例えば次のようなものです。
目標は,上のような棋譜が手元にあれば,盤と駒を使って対局の内容を最初から最後まで再現(棋譜を並べるという)できるようになる事です。この棋譜を並べる経験は一度はしておく事をオススメします。
まず,上図の初形(一番最初の局面)において,先手の2七にある歩を2六に進める場合,その指し手をどう表現するかを考えましょう。
まず,先手・後手どちらの駒を動かすかを意味する記号を書きます。先手の場合を,後手の場合を書きます。そして,2七の歩を「2六」に動かすので,(または)の後に2六を付け加えて「2六」とし,さらに動かす駒は歩なので「2六歩」とします。これで完成です。このように,手番(ここでは先手を表す記号「」),動かす先の位置(ここでは「2六」),動かす駒(ここでは「歩」)の順に書きます。たとえば7七の歩を7六に動かす指し手は7六歩と表します。2八の飛車を6八に動かす指し手は6八飛です。
先手,後手を表すときはそれぞれ,と五角形の記号で表記するのが正式な表記ですが,▲,△と三角形の記号で表記する事もあります。これはコンピュータの文書などでよく使われる表記の一つです。正式な五角形の記号がコンピュータの主要な文字コードに用意されていないので,三角形で代用しているのです。本ページでもこれ以降,(指し手を書くたびに五角形の記号の画像を読みこませるのは面倒という事で)三角形の記号(▲,△)で表す事にします。
それでは次は持駒を打つ手の表し方です。次の局面において,持駒の角を4五に打つ手はどのように表したらよいでしょうか。
これも先ほどと同じような考え方で,手番は先手,打つ先の位置は4五,打つ駒は角なので▲4五角と表します。
以上が指し手の表し方の基本です。これを知っているだけでも,たとえば冒頭の棋譜なら,その指し手の約7割が分かります。
次の局面で,4九の金を5八に進める手はどう表したら良いでしょうか。
動かす先の位置は5八,動かす駒は金なので▲5八金と表したいところですが,6九の金を5八に進める手も,動かす先の位置は5八,動かす駒は金なので▲5八金と表せます。 つまり▲5八金と表しては,どちらの金を5八に動かしたのかが区別できない(指し手が一つに決まらない)のです。
というわけで,指す方から見て左の金(ここでは6九の金)を動かす場合は「▲5八金左」(ひだり)と書き,右の金(ここでは4九の金)を動かす場合は「▲5八金右」(みぎ)と書く事になっています。こう書けばどちらの金を動かしたのかが分かりますね。ただし,たとえば「▲5八金左」の左は,左の金を動かす(6九の金を動かす)という意味で,左の方向に金を動かす(4九の金を動かす)という意味ではない事に注意してください。
それと,繰り返しになりますが指す方から見て動かす駒が左右のどちらにあるのかを判断します。たとえば後手番で6一の金を5二に動かす手は,後手側から見ると6一の金は右の方にあるので「△5二金右」と表します。先手側から見ると6一の金が左の方にあるからといって「△5二金左」としないように注意してください。
次も同様な例です。
ここで左側の3枚の金をそれぞれ7八に動かす手,右側の2枚の銀をそれぞれ4六に動かす手はどのように表すのでしょうか。このような場合には,指す方から見て上の方に動かす時は「上」(あがる),横に動かす時は「寄」(よる),下に動かす時は「引」(ひく)を使って表します。なので,7九の金を7八に動かす手は「▲7八金上」,6八の金を7八に動かす手は「▲7八金寄」,7七の金を7八に動かす手は「▲7八金引」と表します。同様に,3七の銀を4六に動かす手は「▲4六銀上」,3五の銀を4六に動かす手は「▲4六銀引」と表します。
次もまた同様な例です。
左側の2枚の金をそれぞれ7八に動かす手,右側の2枚の銀をそれぞれ4五に動かす手の表し方について,前者は,8九の金を7八に動かす場合は「▲7八金左」,7九の金を7八に動かす場合は「▲7八金直」(すぐ)と表します。後者も同様にして,3六の銀を4五に動かす場合は「▲4五銀右」,4六の銀を4五に動かす場合は「▲4五銀直」と表します。真っ直ぐ上に一マス動かす時に限り「直」と表します。
ここで「7九の金を7八に動かす手を(『▲7八金直』ではなく)『▲7八金右』,4六の銀を4五に動かす手を(『▲4五銀直』ではなく)『▲4五銀左』としても良いのでは?」と疑問に思う方がいるかもしれませんが,この場合は「直」を使うのが正式な書き方です。ただ,この記事は読者が棋譜を並べられるようになる事を目指して書いていて,棋譜を正しく書けるようになる事にはあまり重点を置いていないため,それに関する詳しい説明は,ここでは省略します。興味のある方は「日本将棋連盟」ホームページ内の「よくあるご質問」→「棋譜の表記方法」(http://www.shogi.or.jp/faq/kihuhyouki.html)を参照して下さい。
次もまたまた同様な例です。ここで持駒の飛車を3八に打つ手をどのように表すかを考えます。
これも▲3八飛と表すと,持駒の飛車を3八に打ったのか,それとも盤上の2八の飛車を3八に動かしたのかが分かりませんね。
というわけで,持駒を打った場合は「▲3八飛打」(うつ)と表す事にし,盤上の2八の飛車を3八に動かす手はそのまま「▲3八飛」と表す事で区別します。ただし,持駒を打つときはいつも必ず「~打」と書くわけではない事に注意してください。たとえば先ほど,次の局面で持駒の角を4五に打つ手は「▲4五角」と表すと書きましたが,この場合「▲4五角打」とは表さないということです。「~打」と書かなければ盤上の駒を動かしたのか持駒を打ったのか区別できないときに限って「~打」と書きます。
次の局面から6四の銀を6三に進める手の表し方を考えます。これまでとは違って,動かす先の位置が相手陣内なので,成るのか成らないのかを選ぶ事ができます。
このとき,成る場合は「▲6三銀成」(なり)と表し,成らなかった場合は「▲6三銀不成」(ならず)と表します。簡単ですね。
なお,必ず成らなければいけない状況のときも,成る場合は必ず「成」を最後に付けます。つまり,次の局面において,たとえば8二の歩を8一に進めるときは,必ず成らなければいけないので(成らないと反則になる),「▲8一歩」と最後の「成」を省略して書いても何を指したのかは一応分かります。しかし,この場合も最後の「成」を省略せずに必ず「▲8一歩成」と書かなければいけないという事です。同様に,5五の香車を5一に進める場合も必ず「▲5一香成」,2四の桂馬を3二(1二)に進める場合も必ず「▲3二桂成(▲1二桂成)」とします。
上の局面から▲2四歩と突いた次の局面を考えます。
ここで2三の歩でこの2四の歩を取る手は,実は△2四歩とは表しません。動かす先の位置が,一手前の指し手(ここでは▲2四歩)と同じ場合,動かす先の位置を「同」で表すという決まりがあるのです。というわけで△2四歩ではなく「△同歩」と表します。では,△同歩とした局面において,2八の飛車で2四の歩を取る場合,その指し手はどう表したら良いでしょうか。
ここでも動かす先の位置が一手前と同じなので,▲2四飛ではなく▲同飛と表します。まとめると,下の局面(再掲)から2五の歩を2四へ進めて,その歩を2三の歩で取って,さらにその相手の歩を2八の飛車で取るという一連の指し手は,▲2四歩△2四歩▲2四飛とは表さずに,▲2四歩△同歩▲同飛と表します。
さて,これまで解説した指し手の表し方が身についていれば,冒頭に挙げた棋譜を並べる事ができます。余力がある方はぜひ盤と駒を用意して,駒を初形の配置にして,一手一手並べてみましょう。最終局面が次になれば,最初から最後まで並べられた事になります!
次は,いままでに解説した表記の応用で少し複雑です。
次の局面を見てください。ここで4枚それぞれの銀を5五に動かす手はどのように表すのでしょうか。
たとえば6六の銀を動かすならば▲5五銀左...と表してはだめですね。6四の銀を動かす場合でも,6四の銀は左の方にある銀なので▲5五銀左と表せるからです。また▲5五銀上と表してもだめですね。4六の銀を動かす場合でも▲5五銀上と表せるからです。
というわけで,6六の銀を動かす場合は「▲5五銀左上」(ひだりあがる)と表します。その他の銀を動かす場合は,4六の銀なら「▲5五銀右上」(みぎあがる),6四の銀なら「▲5五銀左引」(ひだりひく),4四の銀なら「▲5五銀右引」(みぎひく)と表します。
なお,必ず「左・右」を「上・寄・引」より先に書きます。すなわち,「▲5五銀左上」を「▲5五銀上左」としたり,「▲5五銀右引」を「▲5五銀引右」としてはいけません。また,たとえば「▲5五銀左上」の「左上」は左の方にある銀を上げる(すなわち6六の銀を動かす)という意味で,左上の方向に銀を上げる(4六の銀を動かす)という意味ではない事に注意してください。
さて,以上の指し手の表し方が身についているならば,どんな棋譜も並べられるようになるでしょう。指し手の表し方はこれまでに解説したものが全てではなく,他にもちょっといくつか細かな約束事があるのですが,知らなくても棋譜を並べる事には支障がないと思うのでここでは省略します。興味のある方は前に出てきた日本将棋連盟のページを参照して下さい。